Valveのゲームは常に「今のゲームの少し先」を作ってきた。
シングルプレイFPSに奥深いストーリーを持ち込んだHalf-Life、対戦FPSのグローバルスタンダードを完成させたCS：GOにTF2、協力FPSのブームを牽引したL4Dとその続編、PortalでFPSパズル、Dota2でMOBAを流行らせたのもValveだ（諸説あり）。
どれもゲーム史に残る名作であることは間違いないが、それまで誰も見たことのないような革新的なゲームとまでは言えない（Portalを除く）。
しかし高い技術で作られたそれらはいつだって「今のゲームの少し先」を描き、後に登場する傑作達の礎となっていった。

本作もまた、これ以降のVRゲームのレベルを強制的に上げてしまうような作品だ。
ストーリードリヴンなシングルプレイFPSというゲームの基本構造はこれまでのVRゲームにもあり、それ自体は真新しくない。
ゲーム内でできることも、他のVRゲームでも可能なことばかりだ。
だがそのひとつひとつのクオリティが、明らかに今のVRゲームの基準から一歩抜きん出ている。
シティ17のバルコニーに立った瞬間どころかタイトル画面ですら一切ハリボテ感を感じさせない、圧倒される没入感。
ちゃんと「存在する」手のおかげで、落ちている物体、閉じている棚、積まれた箱まで片っ端から干渉したくなり、ちゃんと思った通りの反応を返してくれるインタラクティブ性。
プレイ中ずっと持ってる銃はもちろん、お馴染みのコンバイン兵やキモかわキモい生物たち、さらには空き缶、タバコの箱、消しゴムといった素通りしてもおかしくないものまでしっかり作り込まれた異常なほどのディテール。
比較的ペースのゆったりとしたゲームだが、ホラー要素もあるバリエーション豊かなレベルデザインと隠されたアイテムの探索や軽い謎解きのおかげで退屈させることがない。
立位、着席、ルームスケールといったプレイ環境から、移動方式や方向転換まで自由に設定でき、酔い耐性や部屋の広さに関わらず誰でも快適なプレイができるよう考慮されたユーザビリティ。

どれかひとつの要素だったら、本作より優れているVRゲームは既にあるだろう。
だがこれらすべてが高いレベルでまとまり、「VRだから」と見ないふりをしてきたチープさを感じないゲームはきっとまだ他にない。
プレイ後に「部屋の中で顔にプラスチックの塊を固定して変な動きをしてた」ではなく、「没入感の高い上質なシングルプレイFPSをプレイした」と心から思わせてくれたのは本作が初めてだ。
長いロード、短い戦闘、その他細々とした欠点はあれど、現時点で最も優れた「少し先のVRゲーム」であることは間違いない。
あとは、本作が引き上げた高いハードルに挑む開発者が現れ、誰も見たことのない傑作が登場するのを待つだけだ。