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Indsendt: 1. maj 2022 kl. 4:34
Opdateret: 1. maj 2022 kl. 4:39

教会の隣は空き家だった。
この不気味な空き家なら人が近寄らないし、屋根裏なら階下に誰か入ってきても察知することができる。それが発端だったと思う。屋根裏には小窓がついており、辛うじて教会の裏庭が見える。そこは教会墓地だった。柔らかな風でマリーゴールドが揺さぶられているのが目に映る。みんなで彼女のために何か捧げようと、話し合って植えられた花だ。

明かりは蠟燭の火だけ。薄暗い屋根裏へ通じる、床面の戸板がとんとんとノックされる。か細いノックだったが、それは誰がノックしているかを教えている。オーブリーはノックに答えない。毎回繰り返されるノックと無言の返答。茶番だったが、いつだってそれが変わったことはなかった。戸板が押し上げられると 顔を出したのはバジルだ。不安そうな、それでいてやはりオーブリーが居ることを認めて安堵したような、そんな掴みどころのないはっきりしない、おどおどとした雰囲気だ。

オーブリーはそんなバジルが大嫌いだった。

「なんでいつもノックするの」
「返事がなければ君がいるってことだから……」

オーブリーはバジルのこういうところが特に気に入らなかった。
イラつく感情に任せて不意に頭突きをすると、バジルはよろめき倒れてしまう。少量の鼻血が出ている。もっと勢いをつけてやってやればよかった。いくつも並べられた燭台の火に炙られるように、バジルとその影がゆらゆらと立ち上がる。
「出しなよ」
バジルは鼻血を拭いながら、僅かに震える手でラタン素材のバスケットを、おずおずと差し出した。開けて中を確認すると苛草(いらくさ)がみっしりと詰め込まれている。
「ふうん。今日はいいやつかも」
「棘には毒もあって痛いよ」
余計なことを言うので睨みつけるとバジルは顔を伏せる。床からホームセンターで買った太い鎖を、じゃらりと持ち上げるとそれが始まりになった。


木製のバットに苛草を巻き付けるのはそう難しいことではなかった。苛草の棘も木部によく食い込むのか固定がしっかりする。巻き付け作業で多少の棘が指に刺さったが確かに痛い。毒でかぶれるのか刺さった個所からはジクジクと痛みが広がった。確かに痛いものなのか
オーブリーは確かめる性質(たち)なので手袋などしない。いつもいつも本当に痛いのか、ちゃんとバジルが苦しむのか自分で確かめる。
目の前には両腕を鎖で広げられたバジル。パンツ一枚になれと命令しておいたので、なんだか神の子の最期のような惨めな姿だ。今日は思い切り殴りつけるよりは、苛草の棘で肌を切り裂いた方が効果的に思えて裸にしてやった。

裸のバジルには今までやった分の、いろいろな傷跡や、赤黒かったり青紫の色をした痣があった。日常生活でバレないように、できるだけ胴体にやるようにはしていたが、結局は感情の勢いで顔面を殴ったりしてしまったりしているので、オーブリーのそんな配慮も破綻している。「絶対気付かれないようにしろよな」と囁いて帰しはするのだが。顔はやっても加減しておけばいい。16歳の少女に過ぎないオーブリーの認識はその程度のものに過ぎなかった。

両手両足を拘束され、古びた床板へと跪いたバジルに、バットをぐりぐりと押し付けていく。バジルの呻き声が聞こえた。
「痛いんだ?」
「……」
「何かいいなよ」
「……マリちゃんのこと覚えてるの、もう僕たち二人だけなんだね」

苛草バットを振り上げると、バジルの肩口を思い切り打擲した。そのまま胸まで棘で切り裂く。噴き出した血の量は思ったより多かったが、傷口が綺麗なので治りが早くなってしまうかもしれない。出来栄えが気に入らないので、苛草で胸を抉ると傷口が潰れていくのが見える。また治り難くていい傷跡になる気がした。
「お前がマリちゃんをみんなから消したんだ」
「オーブリーがそう思うなら」
「そういうとこ本当にキモい!もっと苦しめよ!普段みたいにめそめそ泣いたりしろよ!」
前に回ったり、後ろに回ったりしてオーブリーはバジルへの打擲を繰り返した。
「なあ?痛いんだろ?痛いって言えよ!」
「……」
「なんでそんなに受け入れるんだよ!?なんで呼び出されて逃げないんだよ!?ポリーさんにも黙ってんだよ!?」
「……」
「答えろよ!!」
「……僕は……楽になっちゃいけないんだ。それがマリちゃんにできることだから」

オーブリーはバジルを傷つけることによってマリに赦されると思っていた。
バジルはオーブリーを受け入れることによってマリに赦されると思っていた。
お互いを求める理由は共有したマリへの赦しだったが、それは決して終息を迎える類のものではなかった。

嗚咽の声をスカジャン姿のオーブリーが漏らす。
「マリちゃん……あたしは絶対に忘れないから。髪だって染めたんだよ……?」
「あぁ帰ってきてよマリちゃん……あの時は消えちゃうなんて思わなかったんだ……」
気が付けばバジルも大粒の涙を流していた。
呪われたようなあの日から、もう四年の月日が過ぎ去り、マリのことを覚えているのはオーブリーとバジルの二人だけになっていた。
「マリちゃん……マリちゃん……」
オーブリーは呟きながらバットの打擲を止め、熱に浮かされたような状態になるとバジルを床に押し倒し、そのまま跨って、直ぐに気をやってしまう。


「ん……マリちゃん?」
自分の感情が昂ったまま失神し、そこから覚醒したような感じで、ぼんやりと目を開くと、下には死んだ魚のような眼をしたバジルの顔があった。なにか口をもぐもぐさせている。何言っているのか聴こえないので、耳を当ててみると「マリちゃんは膝が悪い筈なのにそんな動きができるようになったんだね」などと言っている。それを聞いたオーブリーはこれ以上ない憎悪の感情に満たされ、拳を強く握り固めると、裏拳でバジルの顔面を思い切り殴りつけた。

放心したまま少しの時間が過ぎ去り、オーブリーも服を着直したバジルも教会の屋根裏に座り込んでいる。腫れぼったい顔をさすりながら珍しくバジルから口を開く。
「ねえオーブリー」
「……なんだよ……調子のんなよ?」
「何が?」
「何がって、そういうことがあったからってさ」
ピンクに染められた髪をオーブリーはいじくり回しながら目を逸らしている。

バジルは少し思案した様子の後にこんなことを言い出した。
「マリちゃんのところに植えたマリーゴールドのこと覚えてる?」
「うん」
「みんなが花を手向(たむ)けようって言い出したけど、僕は内心いいことができるぞって思ったんだ」
「いいことって?」
「うん。花を持ってきたのって僕なのを覚えてる?」
「覚えてる」
「あれってオーブリーへ僕からのメッセージだったんだ。マリちゃんと名前が同じだからって最もらしい理由をつけたようにしてたけど。知ってる?黄色いマリーゴールドの花言葉って、"絶望"なんだよ」

察した気がした。バジルはオーブリーが自分を痛めつけるようにコントロールしていたのだ──。
バジルはオーブリーを煽ってもっと自分を傷つけられたがっている。
どれもバジルの想定の範疇。
全てはマリのためってやつか……。


オーブリーはバジルが大嫌いだった。
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