一風変わった何も確定しないところから始まる量子ADV。
選択肢を選んで展開が変わると言えばオーソドックスだけど選択肢を選ぶタイプとは違った印象を受けた。
どのルートのシナリオも毎回違う印象があり、ルートが確定した後ですら味が変わったりするので飽きずにプレイ出来た。
シナリオ全体に芯があり味は変わるがベースが安定してるだけでなく、芯のお陰でプレイした印象が強く残ったのはとても良かった。
推理あり謎解きあり見るのが難しいEDもありで完全自力攻略はちょっときついかもしれない。
ADVとしてはかなり良く新作を強く期待します。

輪郭を自分で与えてあげるゲーム。
従来のADVには問題があり、「自分で選択肢を入力するゲーム」の実装が難しかった（だろう）ということ。
プレイヤーの入力に合致する選択を用意しないといけないですから、かまいたちの犯人当てみたいな。
本作はAI技術を利用しており、「プレイヤーが選択肢を入力し、AIが文脈を判断し、ゲームとして合致する選択肢に誘導する」という解決策を取っています。これって何気にブレイクスルーなのでは？とも思うような。
自分の手で考えて入力した文脈で世界に、自分に、「彼女」に輪郭が与えられて変容していきます。
言うなれば選択肢で分岐した世界ってだけなんですけどね。ただし没入感が違います。
作風とか全然違うんですが「プリズマティカリゼーション」にはじめて出会った時のような感覚を覚えました。

ゲームの流れとしては主に前半で世界を確定させ、後半でその世界の真相を読み解いていくといった感じ。
申し訳ないですが結構難しかったので1ルートは自分でやりましたが、あとは攻略を見つつ進めました。
推理ゲーム的な側面があって、過去の発言などから矛盾点などを指摘する必要があります。
「総当たり」ができないのもあって難易度は高めです。
「彼女」は哲学的な言論を繰り返し思考実験を（インターフォン越しに）行うすげー奴でやる度可愛さが増してきます。
複数の世界を渡り歩き、夜毎語り明かした末の朝焼けには達成感があり、彼女と過ごした夜は確かにあったんやなって実感を持てました。
Cheesecake Hallucinationルートが一番好きかな。

輪郭は自分で作るものではなく他人から与えられるものである。

ストアのトップにはAIを使ってニュアンスで推理すると書かれているが、このゲームの本質の面白い部分はそこではなく『あなたの選択によって輪郭が与えられ真実になる』という部分だと思う。
全体のテーマはありながら芯の部分が安定しているというか、芯の部分ごとひっくり返るので推理ゲームのどんでん返しの真相にたどり着いた瞬間を何度も味わえる。
どの"輪郭"もそれぞれ違った濃い味付けがなされており、新鮮に楽しめた。

しかしほかのレビューにもあるとおりストーリーチャートみたいなものがなく膨大なバックログのどこを探せば新しいルートにいけるのかがかなり難しいのと、哲学的な話題を長い間聞かされるため万人にはおすすめできないかもしれない。

それでもこの値段でこれだけの経験ができるのは買いです。